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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)330号 決定

抗告人 垣内康弘

主文

原決定を左のよおり変更する。

抗告人を過料一、〇〇〇円に処する。

原審の手続費用および抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人の抗告の趣旨および理由は、別紙のとおりである。

訴外タキロン化学株式会社(ただし昭和三四年八月八日以前の商号は滝川セルロイド株式会社)は昭和二六年一二月二九日の定時株主総会において会社の存立時期の定めを廃止したにかかわらず、その変更登記は本店の所在地において同日から二週間内になされず、抗告人が昭和三三年七月一七日はじめて同会社の代表取締役に就任してから、昭和三五年二月五日にいたつて漸くその変更登記申請をなしてその登記を経たものであることが、本件記録に徴して認められる。ところで、かかる変更登記をなすべき事項が生じている以上、代表取締役は必らずこれを登記しなければならないのであつて、法定の登記期間(本店所在地では事項発生後二週間)の経過によつて登記義務の消滅を来すものではなく、法定の登記期間経過後に就職した新任の代表取締役も亦右事項についての登記義務者として、就職後遅滞なく登記義務を履行しなければならない。ただ、かかる新任の代表取締役がいつまでに右のごとき就任前に生じた事項について変更登記しなければならないかについて、登記義務の懈怠責任との関係で問題がないわけではないが、その新任がやはり変更登記事項として本店の所在地において新任の日から二週間内に登記することを要するものとされていること(商法一八八条二・三項、六七条参照)や、前記変更登記事項について事項発生当時の代表取締役のために法定の登記期間として二週間の期間が設定されていることを考え合わせると、かかる新任の代表取締役は、就任前すでに生じている変更登記事項については、就任後二週間内にその変更登記をしなければならないものと解するのが相当である。そして、会社の存立時期の廃止のごときは、会社の存続にかかわる重要な事項であつて、かつ会社経営者の見やすいところに属するから、本件において、抗告人が昭和三三年七月一七日代表取締役に就任後二週間内に右の変更登記をする義務があるのにその後昭和三五年二月五日までその登記をしなかつたことについては、登記義務懈怠の責を免れえないといわざるをえない。

もつとも、原審は、抗告人が前記変更登記事項発生当時から引き続き会社の代表取締役に就任しているがごとき事実認定のもとに、右事項発生当時の登記期間満了の翌日である昭和二七年一月一三日から抗告人が上叙説示のごとく本来登記すべきであつた期間の満了する昭和三三年七月三一日にいたる間についても、抗告人に登記懈怠の責を問うているけれども、抗告人は昭和三三年七月一七日前においては前記会社の代表取締役に就任していないのであるから、右期間における登記義務の不履行に対して抗告人に懈怠の責を負わせることはできない。したがつて、この点に関する限り、原審の認定は不当であつて、抗告代理人の所論は理由がある。しかしながら、抗告人が前記変更登記事項発生当時より二週間の法定の登記期間内の代表取締役ではないとの理由で、前記認定の懈怠責任もないということはできないのであつて、これに反する抗告代理人の所論は到底採用し難い。

以上の次第で、商法第一八八条第二、第三項、第六七条、第四九八条第一項第一号、非訟事件手続法第二〇七条第四項を適用し、原決定を変更して、主文のとおり決定する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 斎藤平伍)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

との御裁判を求める。

抗告の理由

一、原裁判所は抗告人(被審人)が昭和二十六年十二月二十九日から二週間内に登記すべき義務あるのに右手続を怠つたとの理由で抗告人を過料に処する旨の決定をした。

二、然しながら抗告人は昭和三十一年十月二十二日初めてタキロン化学株式会社(旧称滝川セルロイド株式会社)の取締役となり同三十三年七月十七日同社の代表取締役に就任したものである。換言すれば抗告人は前記登記事由の発生した昭和二十六年十二月二十九日には代表取締役は勿論取締役に就任して居らない。従つて同社と何等の関係がなかつた抗告人が前記登記事由に関し登記すベき義務など絶対に有しないのである。凡そ登記義務がないのに拘わらず手続を怠ると云うこと更に手続を怠つたとして過料に処するが如きは甚しく違法と云わなければならない。此の意味に於て抗告人は原決定は速やかに取消されるべきものと信ずる。

三、抗告人は本抗告の疏明として登記簿抄本を添付する。

尚ほ先に岡野讚郎が提出した陳述書と題する書面をも援用する次第である。

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